「旅館」を「別荘」とする考え方

2011 年 7 月 31 日

以前にも書いたことがあるが、20代の若年層の旅行離れが加速している。
給料も安いわりには、日常に、通信機器関連や、交際費に出費がかさんでいるところも影響しているかもしれない。
同じことが言えるのが、若年層にクルマも売れなくなっている。
通信関連の出費など→お金に余裕がない→クルマが売れない→旅行離れ・・・という仮定もあながち間違っていないかも。
全国の宿泊施設の経営者も同じように危惧している。
「若者が旅行しなくなった」と。

もちろん若者も旅行している人はいる。
それは結婚しているか、交際している異性がいる場合が多い。
少子高齢化の社会ということは、20代で結婚する人も減っているという事。
一緒に行動する異性がいなければ、旅行もしないという理屈も説明がつく。

しかし若者が旅行離れをしているのは、様々な要因が考えられる。
そのひとつが、予約サイトや宿情報誌に載っている、いわゆる「宿泊プラン」にも原因があると、私は考えている。

宿の公式HPにも、料金表はなくても、「宿泊プラン」のページが賑やかなところが多い。
「宿泊プラン」とは、いかにお得かアピールするものから、特典をセットするもの、期間限定ものなど様々だ。
しかし、それはいわゆるスーパーなどの小売店などが、消費者に少しでも注目してもらうため、セールを行うようなものとも言える。
その「宿泊プラン」に引き寄せられ、予約をする仕掛けだ。

でも、それは宿そのものを理解して、予約したものなのだろうか?
宿とは、経営者が違えばそれぞれ個性が出て、その特徴や佇まいが気に入って、客が予約するものだと私は思っていた。
それが特典などのオマケを付けて集客する仕掛けが、私には疑問なのだ。
特典につられた客が実際に宿に泊まってみると、ターゲット層でない客層だとすれば、すぐにさほど自分に合った宿ではないと気付く。

反対に、よく私が取材時にお見受けする、60歳以上のご夫婦などは、よく旅行とは何たるかを理解している。
そして旅館の過ごし方、楽しみ方を熟知しているようにも思える。

そして、こんな考え方も頭に浮かんだ。
20代の若者は、同じ宿に連泊した経験は少ない。
行動力があるせいか、2泊できるスケジュールがあるなら、移動して違うところに泊まる傾向がある。
ところが、年配のご夫婦は、圧倒的に同じ宿に連泊する場合が多い。
これは体力的な問題以外に、秘密が隠されているように思える。

それは、私自身がプライベートで宿を取る場合、連泊が基本だからだ。
2泊すれば、宿によっては翌日の朝食を遅くしてもらったりもできる。
最近では、ブランチに切り替えしてくれる宿も出てきた。
2日目の昼間が有効に使え、周辺の散策などもできるようになる。
もちろんのんびり昼寝もいい。
ゆっくり休んで、温泉に浸かり、再びご馳走をいただく。
3日目の朝は、すっかり疲れも取れて、自宅に帰る。
こんな旅は、精神的にも体力的にも余裕が生まれるのだ。

1泊目であれば、宿の勝手が分かるだけ。
2泊すれば、周辺環境も楽しめて「旅館」が自分の「別荘」にも思えてくるのだ。

海外旅行でも同じ事が言える。
楽しい旅行も、初日は長時間のフライトや、時差ボケもあって、体力的にきつい。
しかし、2日目以降は、体力も回復し、空気や水にも慣れ、その土地を満喫できるようになる。

日本での温泉旅館の過ごし方も同じ。
2泊することによって、本来の温泉宿としての快適さが再認識される。
チェックインした翌日に、すぐに荷造りするような忙しさがないのも嬉しい。

かつて世界のホンダの創業者・本田宗一郎は、こう言ったという。
「日本には、旅館というものがある。その国で別荘なんてものは本当に必要なのか」と。
温かい食事とふかふかの寝具が常に用意され、心からの「おもてなし」を受けられる「旅館」という日本文化は、「温泉」という自然の恵みと相乗効果を持ち、世界に誇れるものとなった。

今、日本は夏休みの季節となった。
ふだん、連休が取れない人たちも、この時期なら同じ宿で2泊以上できるはず。
ぜひ、同じ宿に2泊以上して「別荘」気分を味わってほしい。
その「別荘」を探すことも、旅の工程のひとつ。
しかし、生涯の「別荘」を見つけられたら、それはこの上ない喜びになるだろう。
ちなみに、その「別荘」には、年間の維持費も固定資産税もかからない(笑)。

「地産地消」の危機

2011 年 6 月 30 日

ここ最近、私は3・11の「東日本大震災」以降、温泉宿に関する“常識”はことごとく変わったと宿泊施設の経営者に話している。
前回のブログでも語ったように、いま旅行人口が約3割減ったと考えている。
そのことを前提として集客計画を考えないと、宿経営者は、ただ宣伝費を無駄にするだけなのだ。

今回は温泉宿の「食」について話させてもらう。
あのミシュランガイドでも、東京の飲食店が世界一の三ツ星獲得数になるなど、いまや世界的にも認められている日本の食文化。
それは、四方に海に囲まれ恵まれた漁場を有し、保水機能を持つとされる山岳地帯を国土の70%を占め、それによって世界有数の農作に適した土壌を持つ事などから、最上級の料理素材を生み出す環境がある事が裏づけとなっている。

日本全国の点在する温泉地。
そこで営業している温泉宿も、もちろん料理は重要なアイテムだ。
その料理のテーマとして「地産地消」を掲げる宿は多い。
意味は、地域でとれる農作物や水産物を地元で消費することだが、旅をする人たちにとって地方の食文化に触れるというのは、旅そのものの楽しさのひとつである事から、いわば宿泊施設側でも、便利な言葉として採用されたようでもある。

しかし、これも3・11以降、“常識”ではなくなったようだ。
最近、特に東日本の宿では、予約の際、料理の素材の産地を問い合わせる客が増えてきたという。
公式HPに「地産地消」をテーマにしていない宿は特にその傾向が強いようだ。
人によっては、独自の情報網やインターネットを使って、各野菜の放射能濃度を調査する場合もあり、それで得た情報や知識によって、予約した宿泊施設へ質問する人が急増しているのだ。

先日、箱根の某高級旅館の取材をした際、宿からこんな話を聞いた。
予約した客から、魚の仕入れから野菜の産地まで明確に情報を要求してきたという。
また、魚に関しては福島からの海流の関係で、茨城や千葉は論外で、箱根の宿がよく仕入れをする小田原港もやめて、できれば伊豆半島の付け根の西にあたる沼津港からにしてくれなど、詳細にリクエストもしてきたという。
野菜に関しても、東北・関東エリアからではなく、西日本で仕入れるようにとも言ってきたとの事。
ちなみにこういったお客は、小さなお子さんがいる場合が多い。
将来を心配する親心も分からないわけでもない。
しかし、ここまで神経質になるまで追い詰められている人が多いという事は、宿泊施設側は認識すべきだろう。

私は東北、特に福島県の宿に、3・11以来、料理の素材に関してよく質問された。
このまま、地元のものを使ってもお客はついてきてくれかという問題だ。
その答えは、「安全性がある程度確保できれば支持してくれる客はいるだろうが、それは全員ではなく、約7割だろう。」
これは冒頭に書いた旅行人口が3割減ったという事とリンクしている。

ここで重要なのは“情報公開”。
地元の素材を使う事を継続するのか、
安全性が確保された地元の素材を一部使うが、場合によっては他地方のものも取り入れるか、
完全に“地産地消”をやめ、“安全性重視”で国内から素材を仕入れるか
・・・など、明確にHPで告知することも重要だろう。

NHKの情報番組で、小さなお子さんを持つ主婦が、野菜の宅配サービスを利用して、産地にこだわって注文している映像が流れていた。
その主婦は「東北、特に福島の農家には心苦しいけど、子供の将来に危険要素を増やすことだけは避けたい。」と語っていた。
そしてこうも語っていた。
「農協などが野菜ごとに検査しているのは分かるが、それは毎回ではなく、ものよっては3月末から検査していない場合もある。もし検査して安全だと言われても、それは検査した野菜サンプルそのものであって、各野菜ひとつひとつがすべて検査されているわけではないから信用できない。」
ここまでくると、私は何も言えない。
人それぞれに感覚や考え方があるし、仕方がないことだと思う。

しかし、多くの農家が多品種少量生産を行っている環境では、放射能濃度を測る検査費用も相当な負担になる。
といっても、前述したように“情報公開”しなければ本当にお客の気持ちをつかめないのも確かなのだ。

宿関係者は、半ばあきらめ口調でこう言う。
「分かる人だけ来てくれればいい。」
・・・でも、それでは経営が成り立たなくなる宿が増えていく可能性がある。

だからこそ、原発事故の影響を受けるエリアで宿を営む関係者に言いたいのは、やはり“情報公開”しか道はないということ。
その“情報公開”とは、自分の宿はこういう方針で料理を出していますという確固たるポリシーを、客側に提示する事。
地元の素材にこだわるのであれば、野菜であれば露地ものではなく、ハウスものを使っているとか、安全面を裏付けできる情報が欲しい。
それによって、客としては明確に予約するかしないか決められるわけだ。

現在の日本政府のような、ブレる体制では誰もついてこない。
はっきりと方針を打ち出すことによって初めて予約したい宿リストにあげてもらえると思っていい。

地方に多い温泉旅館は、地方の基幹産業でもある。
これがあるから、農家や漁業関係者の生活が成り立ち、業者の仕事も発生する。
そして何よりも、社会生活に不可欠な雇用を生み、地方の過疎化を防ぐことができる。
だからこそ、私は温泉宿を守りたいし、たくさんのお客さんに足を運んで欲しい。

日本食をユネスコの「世界無形遺産」に登録しようとする動きがある。
原発事故以来、世界的にも信頼が揺らぐ日本の食文化に再び脚光を浴びせ、観光振興にも繋げたい意図が見える。
これも集客対策に役立つなら大いに歓迎だ。
一刻も早く原発事故が収束し、3・11以前の日本に戻る事を願うばかりである。

「東日本大震災」後の温泉宿の生き残り対策

2011 年 5 月 31 日

2011年3月11日の「東日本大震災」以降、日本国民の中には、今までの人生観、生活観が変わった人も多いだろう。
被災された方などは、まさにそうだし、その惨状を、マスコミを通じて見ていた人たちも、少なからず影響を受けたに違いない。

大事な人を失い、途方に暮れる人たちもいれば、他人事と捉える無関心派もいる。
福島原発の放射性物質の拡散による農作物の風評被害により、将来を悲観せざるを得ない人たちもいれば、徹底的に福島の農作物を食べない人たちもいる。

よくTVで「日本はひとつ」だとか「日本を信じている」とか、有名スポーツ選手やタレントを使って啓蒙しているが、それは日本がひとつでない表れでもある。
もちろん、人それぞれに考え方があって当然。
原発反対派もいれば、容認派がいてもいい。
日本は、言論の自由を認めている国だから。

さて、私の一番身近な温泉宿は、はっきり言って、危機的状況にあることは確かだ。
東北の有名温泉地の旅館では、被災者を一時受け入れているところがあるが、仮設住宅が完成すれば、通常の一般客を受け入れるようになる。
被災者受け入れの指定を受けられなかった宿は、震災直後から予約キャンセルの嵐に巻き込まれ、さらに自粛ムードにも追い込まれ、青息吐息の状況。

震災後の東日本の宿泊施設の経営者は、従業員の整理をしたりなど、考えられるリストラ策を講じ、この戦後最悪の震災を乗り越えようとしている。
ほぼ家族だけで経営している小規模旅館はともかく、多くの従業員を抱えて多額の借金があるところは、金融機関が追加融資を断ればジ・エンドの状況だ。

私は、震災後は自粛ムードを吹き飛ばし、東日本を励ます目的で「宿援隊」サイトをオープンしつつ、全国を動き回り、多くの宿経営者と会ってきた。
印象としては、九州エリアは、震災直後はキャンセルが相次いだが、その後急速に持ち直した模様。
関西エリアは、ビジネスユースのホテルは、東京移動組のビジネスマンが利用し、活況だったようだが、観光目的の旅館は、昨年より大分客足が減ったらしい。
東北・北関東はもちろん、震災の影響をモロに受けたエリアであるから仕方ないが、伊豆や信州なども、大きく集客を落とした宿が多かった。

これらの状況が、宿経営者のマインドを悲観的にし、守勢にまわり、それが宿泊料金値下げという、自分の首を絞めるかもしれない危険な決断をしている宿を増やしていった。
客が来ないから値下げをしたりするのも、広告費などをねん出できない財務環境にも起因している。

もう今までの常識では、この危機は乗り越えることは難しいという事実を、私の愛する温泉宿の経営者は認識してほしい。
大手予約サイトも、震災後は30%もアクセスを落としたという。
それだけ、旅行をする人たちが減ったという事。

皆さんご存知のように、東京電力の原発事故により、放射能を怖がり、多くの外国人が日本を去り、同じようにインバウンドの観光客もほとんど姿を消した。
日本人ですらも、政府官邸の原発事故の状況報告が、事実を隠ぺいしているのかもしれないという疑念があり、放射性物質の拡散データも信用できないから、東北、特に福島県の旅行を控えようとする人たちが増える。

このようなマイナスイメージばかりの状況を乗り切るには、ズバリ、今までの常識、つまり集客方法の抜本的な改革が必要となった。
国内旅行をする人たちやインバウンド観光が減ったわけである。
東日本に関しては、日本の人口1億2800万人相手に、商売をしていたとなれば、少なく見積もっても、3割減の約9000万人相手に商売する心構えをしなければならないという事。
つまり、震災後は、それ以前より人口の少ない国で商売しなければならなくなったと思わなければならない。

もう「宿泊プラン」で売る時代は終わった。
それよりも「宿の個性」を売り出すべきだと思う。
「宿泊プラン」は、それ自体がお得感を打ち出す、値引きセールの意味合いが多い。
それでは、宿は充分な利益を出せず、将来に希望を持てない。
しかし、「宿の個性」を売り出すという事は、リピーターになってくれそうな人たちに訴求し、宿に来てもらうという意味。
もう少し分かりやすく言えば、幅広い客層を狙うのではなく、一部の客層に絞るということだ。
百貨店ではなく、専門店を目指せということ。

そして、分かりやすい料金体系を作るということ。
基本、旅館の宿泊料金は、客室のグレードと、料理のランクで決まる。
よくあるパターンは、高級な客室には、料理も最高ランクのものをセットする。
逆に安価な客室には、標準ランクの料理をセットする。
これは、客が求めていたものなのだろうか?
宿側が勝手に決めつけているだけではないだろうか?

クルマの話で例えるが、今から約20年前、BMWの3シリーズ、そしてメルセデスベンツのCクラスが日本に初めて登場した時には、今まで国産車しか知らなかった人たちは衝撃を受けた。
大きなクルマ=高級車。
小さなクルマ=大衆車。
・・・という常識を打消し、「小さな高級車」というカテゴリーを創出したのだ。
今でも、これらのクルマは、今でも外国車のベストセラーカーとして販売されている。

つまり、客室は小さくても、豪華な料理を食べたい客もいれば、大きな客室は欲しいけれど、料理は少なめでいいという客もいるはず。
「宿泊プラン」でセット化するのではなく、客室と料理でセットすれば、新たなニーズを発見できるかもしれないのだ。

単なる値引きプランも論外だ。
一度、値引きをしたら、元の料金に戻すのは大変な労力がいる。
宿泊稼働率が下がっているこの時期にこそ、できる方法は他にあるはず。
例えば、平日限定で、通常料金一人20,000円だったら、連泊する場合、2泊目を8,000円にする。
これは、実際は値引きとなるが、あくまでも定価があっての連泊推進キャンペーンとなり、宿のブランドイメージを損なうこともない。
そして、これによって平日の客室稼働率も上がるわけだから一石二鳥だ。
何よりも、2泊3日の時間の余裕が、ゲストの疲れを解消してくれる。
さらに、周辺の散策など、宿だけでなく、環境そのものまでゲストは体感することができる。
つまり、「宿+周辺環境」を楽しんでもらうことにより、リピーター客を増やす可能性が高くなるというわけだ。
2泊目を安くするには、初日か2日目いずれかの夕食を簡単なものにすればいい。
連日、ご馳走をいただくのがつらい年配の方も多いから。

20室以下の小さな宿は、公式HPで経営者のプロフィールを紹介すればいい。
どんな考え、そして趣味を持った人が、オーナーなのか、客としては気になる。
同じ趣味の人が客として来てくれれば、実際宿に訪れると波長が合い、結果リピーター客になる場合が多いのだ。
小さな宿は、オーナーの個性がそのまま出る。
それが好きな方は、小さな宿を好む。

最近、宿を別荘変わりに使う人が増えていると聞いた。
別荘はメンテナンスが大変で、別荘に到着した初日は風通しを良くし、さらに大掃除をするのが通常のパターンらしい。
それよりも、好きな時間に温泉に入り、美味しい料理もいいただきながら、ふっくらした温かい布団で寝る事ができる温泉宿のほうが、どれだけ便利で心地いいかしれない。

しかし、別荘と違って、旅館は自分のイメージしたインテリアは置けないし、自分好みではない椅子が置いてある場合も多い。
床の間の掛け軸や、壁に掛かった絵画も、自分の趣味ではない。
だからこそ、自分に合った部屋選びを、公式HPでできればいいと思っている。

宿経営者は、以上のような事を「面倒」と思ったら、その宿の進化は止まる。
宿は常に進化していかなくては、時代に取り残されてしまう。
常に「面倒な事を一生懸命」している宿に、人は興味を示す。

宿は、「非日常」を演出しているのか、「日常の延長」を提案しているのか、明確に出すのも大切だ。
宿に泊まる「目的」は何なのかによって、客室や料理グレード選びも違ってくる。

自然の摂理の通り、人が支持しなければ、宿は滅びる。
逆に、人が宿を支持してくれれば、ずうっと宿は繁栄することができる。
その単純な事に気づけば、この未曾有の大震災を乗り越えられるはずだ。
頑張れ!ニッポン。
頑張れ!日本の温泉宿。