温泉旅館とインバウンドの相性

2017年も、観光業界のインバウンド景気は好調の様子。

喜ばしい限りだが、東京、京都など人気エリアは、相変わらずの宿泊施設不足で、法的、周辺環境などの問題を抱えながらも、民泊業界も活況を呈している。

そんな中、私が、その宿泊施設のエース格に挙げたいのが、いわゆる「温泉旅館」。

「温泉」(泉源)は、そのほとんどが地方都市、または人口が密集していないエリアに存在する場合が多い。

インバウンドが、定番の人気観光地から、地方に目を向けようとしている段階に来ている事を考えれば、その“地方”に存在する温泉旅館は、まさに切り札的存在に思える。

温泉旅館は、古くからのニッポンの文化、風習、食、そして日本人が愛してやまない温泉を一度に体感できるからだ。

しかし、否定的な意見を持つ方もいるようだ。

温泉旅館は、湯治宿はともかく、長期滞在ではなく、1泊2食スタイルが基本となっていること。

ホテルと違い、夕食は基本ひとつのコースとなっており、しかも時間もある程度決まっている。

せっかく日本に来たのだから、時間を許す限り、周辺を歩き回りたい旅行客にとっては、夕食時間が決まっているのは、堅苦しく思う部分もあるという。

連泊するのが当たり前と思っている客は、なおさらだ。

食材は変わっても、食事のスタイルは変わらない。

ホテルのように、その日の気分でレストランを選べない。

特に、小さなお子さん連れのファミリー客にとっては、つらいところだ。

このような状況を敏感に察している旅館経営者は、「泊食分離」を実践している。

山奥の一軒宿などは別だが、温泉地を形成しているエリアの中で、夕食は宿の近くのお店を紹介するスタイル。

夕食の時間を遅くしたい場合は、居酒屋という選択肢もある。

そのような情報を、自社Webで案内するところが徐々に増えている。

そうする事により、連泊を促すこともできよう。

これは日本人にも有効なような気もする。

地方ならではの珍しい美味しいものを見つける事は、旅行のひとつの醍醐味であるからだ。

日本人と外国人のギャップ

テレビ番組、特に情報番組やバラエティ番組で、日本の素晴らしさを外国旅行客や日本に暮している外国人に語らせ、結果、ニッポン礼賛をする傾向の番組作りが目立ってきた。

日本人のプライドを擽るようなその制作手法は、一般視聴者には受け入れられているからだろうか、どんどんそのような番組が増えているような気がする。

 

一方、外国人は、住んでいる環境が違うから、日本に来たら驚くものばかり・・・というのは、よく分かる。

私も、数は少ないが、海外に行くと、その生活環境や習慣に驚くことも多いからだ。

 

日本の伝統文化をそのまま伝える事ができる温泉旅館は、ある意味、外国人観光客にとって、コンパクトにパッケージされた実体験メディアのようでもある。

ところが、HotelとRyokanの区別のつかない初心者インバウンドは、夕食の時間までに宿に到着しないことが多いという。

夕食は18時と決められていても、18時過ぎでもOKと思い、平気で20時にチェックインして、いつでも夕食が食べられると勘違いしている客が多いと、複数の旅館経営者から聞いた。

 

Ryokanは、Hotelとは違い、1泊2食付きが基本であるという事。

しかも、夕食朝食とも時間が決められているという堅苦しさが、ニッポンに慣れていない外国人旅行客には不満を感じるかもしれないが、それも慣れると、美しいニッポン滞在の思い出となる。

海外の「習慣」にちょっとでも触れると、旅気分を味わえるからだ。

 

さらに、宿泊料金も、Hotelの部屋単位の予約に慣れている外国人には、Ryokanの料金スタイルに複雑さを感じる事もあると聞く。

つまり、Ryokanの料金システムは、和室の場合、1部屋2~6名様を定員とし、「一泊二食(夕食+朝食)付き、一人あたり」に基づいて計算されていて、一部屋に人数が多く泊まれば、その分一人あたりの宿泊料金が安くなるという事。

これらが、きちんと説明されているRyokanのホームページは、当然のことながら、外国人旅行客の予約も増えてくるだろう。

 

これらの事は一例だが、日本側の宿泊施設にとって、他にもインバウンド対策に用意すべき事はたくさんある。

それは、やはり日本人だけでは無理だろう。

外国人目線が絶対に必要になってくるからだ。

「日本の常識は世界の非常識」というフレーズが流行ったように、数々の日本人と外国人のギャップに目をつけ、それに対応するように心がけなければならない。

 

いま日本は夏という季節を迎えようとしている。

暑い夏には、アイスコーヒーが美味しいと感じる日本人は多いだろう。

しかし、そのアイスコーヒーが、日本が発祥だという事実を知っている人はどれだけいるだろうか?

やはり、ギャップは面白い。

有名観光地を持たない温泉宿の未来

相変わらず、京都を代表とする有名観光地のインバウンドの吸引力は凄い。

ニッポンに初めて来る外国人旅行客にとっては、やはり定番どころの有名観光地をおさえたいのは、心情的によく分かる。

問題は、二度目以降の訪日旅行の場合。

次は、もう少しディープなニッポンを見たい、もっと田舎のリアルな生活風景を体感したい・・・と思ってくれたら・・・・・それは喜ばしいことである。

そこに、有名観光地を持たない温泉宿の未来があるからだ。

 

温泉は、日本人の国内旅行におけるド定番。

何かの記念日とか、ちょっとした休暇とかに温泉旅行は欠かせない。

年齢を重ねた人たちには、カラダのメンテナンスのための湯治という文化もある。

まさに、ニッポンのディープで、リアルな生活風景がそこに存在する。

 

業界でインバウンドのコンサルタントと名乗る人たちは、どちらかというと、メジャーなものの見方が大半だ。

業界誌や経済誌を読んでも、そういった無難な表現をする書き手が重宝される。

しかし、現実には、そういった記事や評論は、結果的に成功した事例を伝えているだけに過ぎない。

 

では、有名観光地が近くにない地域の温泉宿は、どうすれば生き残れるか・・・というテーマは、どちらかと言えば、マイナー的なマーケティングが必須で、例えれば、細かな処方箋が必要なのだ。

つまり、ホームページひとつとっても、大ざっぱな、どこの宿でも紹介しているやり方では、どこからも注目されず、埋没していく運命になることだ。

 

有名観光地を持っている宿の社長が、私に販促の相談をして、その答えとして、新しい提案をすると、このような返事が返ってくることが多い。

「それ、他のどこかでやっているの?」(他で成功例があるなら、やってみてもいいという意味)

 

有名観光地を持たないのに、繁盛している宿の社長は、大体がこう答える。

「それ、他のどこかでやっているの?」(他でやっていないなら、やってみてもいいという意味)

 

言い方は、同じでも、その意味は正反対なのは面白い。

つまり、有名観光地を持たない宿は、マイナーでもいいから、個性を前面に押し出し、キャラを立たせないと目立たないという事なのだ。

あまり集団から目立ちたくない、変わり者と呼ばれたくない日本人の性質からは難しいところだが、やはり商売、ビジネスともなると、目立たなくては、未来はないという事。

 

私は、幸運にも、そういったお宿さんとのお付き合いがほとんどだから、仕事が楽しい部分があるのは確か。

「変わり者」と呼ばれるのは、私にとって、最高の褒め言葉なのだ。